フロンティア絶好調!ようこそ!日本三大開拓地、矢吹町へ

FRONTIERS

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岡田光栄さん
農家
開拓魂から育まれた
伝説のリンゴ「こうみつ」

深い赤味を帯び、酸味がなくの糖度の高いリンゴ「こうみつ」。たっぷりの蜜が入っていて爽やかな甘みが口いっぱいに広がるリンゴは、実は矢吹で生まれた品種なんです。他に類を見ない独特なリンゴを作り、矢吹で70年以上リンゴ農園を営む、岡田さんにお話しを伺いました。

昭和24年、弱冠18歳の時に入植許可をもらい、現在でも八幡地区で唯一のリンゴ栽培を営む岡田さん。岡田さんが入植した、開拓されたばかりの矢吹では、寒冷な気候で水はけの良い土地で行われる、リンゴなどの果樹栽培をする農家も多かったそうです。

岡田「リンゴの他にも、モモやナシを作る人もいました。羽鳥疎水ができて矢吹にも農業用水が豊富に通ると、みんな稲作を始めましたね。当時は何と言っても、主食のお米が一番だから。」と当時を振り返ります。
まずは昭和38年から夫婦二人で、スターキングデリシャスの種をビニールハウスにたくさん蒔き、残った260個の苗を育てて、リンゴの苗に無農薬など厳しい条件を与えながら、他のリンゴの木と交配・選抜を繰り返し、長い年月の中で病気に強く、美味しい1本の木にたどり着きます。その木こそ、「こうみつ」です。

岡田「大体のリンゴの苗は、上手く育たずに枯れてしまいます。品種改良は、本当に長年の根気が必要なことなんです。」
さらに品種登録までには、農林水産省の調査などが必要で、種を蒔いてから30年の月日を費やし、平成13年にようやくリンゴの品種として登録されました。福島県内では、県の果樹試験場が登録した「ほおずり」に次ぐ2番目。リンゴの生産地ではなく、夫婦で営む小さな果樹農家が主体とし、自治体などの研究機関でない登録は、まさに執念の快挙でした。

岡田「農水省に品種登録の書類を提出したんだけど、添付した花の写真が良くなくてね。運よく時期から遅れて咲いた花があったので、地元の写真屋さんに頼みこんでわざわざ家に暗室を作って照明をたいて、花を撮ってもらいました(笑)ちゃんと新種であることを証明して登録するのが、一苦労なんです。ですから登録はしていないけど、ここだけにしかない“名無しの”リンゴの木も、庭にあるんですよ。」

岡田「同じ品種、例えば【ふじ】を作っても、青森などリンゴの生産地の実は、縦長で大きい。どうしても福島のリンゴは、平べったくて、小ぶりになってしまう。気候の違いは、どうしょうもないんです。」
今までにない新種のリンゴを作ったと言っても、リンゴに適した気候や生産面積は、青森などの特産地には到底敵わず、リンゴで家族を養うことは難しかったそうです。それでも岡田さんはリンゴ作りを諦めません。冬は枝の剪定、春は摘花、夏は草刈りや防除、秋は実に袋がけなど、一年中作業のある農園での仕事を朝から始められるように、夜勤のある勤めに出ながら、兼業農家として農園を守りました。

岡田「どうしても金銭面で、勤めの方に力を入れなくてはならなくてね。果樹を続けるには設備投資も必要で、借り入れもしていましたからね。袋かけなど期間が限られた作業は、妻に任せてしまうこともありました。」
岡田さんの頑張りの陰には、農家から嫁いで農園と家族を支えた、奥様のトミ子さんの力も大きかったようです。夫と共に家計を助けるために、さまざまな副業もこなしたそうです。

岡田「リンゴの世話はもちろんですが、他にもコンニャクいもの栽培や子ブタを市場に売るためにブタも飼っていました。」
しかし、そんなご夫婦で半世紀以上の月日を守り抜いたリンゴ園の作業も、ここ数年は本当に身に堪えるそうです。どうしても朝に音の出てしまう作業もあり、宅地化が進む住宅地と農園が近接していることも考えると、そろそろ幕を下ろそうと考えているとか。そうなると苦労の中から生まれた奇跡のリンゴが、もう食べれなくなってしまうのではと心配になります。しかし、苗木は日本全国に広がり、リンゴ作りの盛んな青森や岩手、山形でも現在「こうみつ」は育てられています。岡田さんの農園には、全国各地から農家さんが視察に訪れるそうです。
取得している「こうみつ」の品種登録も、現在は取り下げて、全国の生産者が栽培しやすいように配慮しています。そんな岡田さんの人柄が表れている「こうみつ」は、割ると果肉全体に蜜が入っていることに驚かされます。糖度の高い爽やかな甘みと共に、特徴的なのが食感。食べ応えのある密な食感から、完熟パイナップルに近いと形容する人もいます。煮崩れも起きにくく、お菓子作りにも美味しいリンゴです。岡田さんが若い時は、収穫しながら実をかじっていたそうです。

岡田「5年前に大病を患ってリンゴを辞めようと思って枝を切ったんですが未練が残ってね。やっぱり、リンゴ作りが好きだからね。」
リンゴ作りを再開した後も、今まで栽培たことのない品種に挑戦したというバイタリティーの塊もような岡田さん。矢吹の開拓魂は、今年の冬もリンゴが実る農園にも宿っています。